2023.8.12

ジョブ型人事制度で失敗する企業の特徴とは?

ジョブ型人事制度が従来のメンバーシップ型人事制度に取って代わる形で、大手企業を中心に徐々に進んでいます。とはいえ以前から海外展開を行う企業では導入されてきていました。内資企業でも導入を検討する企業もありましたが、その導入が必ずしも成功に結びつくわけではないという事実を見逃してはなりません。何が成功の鍵を握るのか、そして何が失敗を招くのかについて深く掘り下げて解説します。

ジョブ型人事制度とは?

ジョブ型人事制度とは、「仕事基準」で各ポジションに人材をアサインしていく人事制度です。一方、従来のメンバーシップ型人事制度では「人基準」で長期的に人材を育成していくモデルです。

従業員から見たジョブ型人事制度は、適材適所でのアサイメントが行われることで自分に合った仕事に従事できる、年齢や年次関係なく適切な報酬を得られるなどのメリットがあります。一方で自身のキャリアについては先々を見据えた能力開発や経験値を積むことも求められるとも言えます。メンバーシップ型であれば会社がローテーションを行いながらゼネラリストとしてのキャリア形成を促したり、配置転換によって新たなキャリアを用意してくれたりします。

結果的に終身雇用を前提とした年功的なメンバーシップ型人事制度に比べると、自由が得られる分の自己責任が求められます。

メンバーシップ型とジョブ型のどちらが良いかは企業としての考え方次第です。もしジョブ型人事制度を検討するのであれば事前に失敗しがちなケースを見ておくことで自社に適性がありそうかどうかを判断することも有効かもしれません。ここからは、ジョブ型で失敗するケースを中心にその原因をみていきたいと思います。。

企業がジョブ型人事制度で失敗する原因

失敗の原因は多岐にわたりますが、主に以下の3つの要素が該当します。

人事ポリシーの欠如

ジョブ型人事制度は、企業の人事ポリシーと結びついていなければなりません。企業の人事ポリシーが不明確であると、どのような人材を採用し、リテンションしながらキャリア形成を支援して行けば良いのか事業サイドがわからなくなってしまいます。例えば、マーケット的にお金を非常に重視する人材を採用せざるを得ないのであれば職務内容に応じた報酬を設定することが重要になりますし、インセンティブの要素も高くなるかもしれません。

人事制度はあくまでも人事ポリシーを実現する上での制度の一つに過ぎません。まずは自社がどのような人材を求めており、どのように金銭・非金銭の両面から処遇していくのか。その考え方を明確にすることが自社に適切な人事制度を検討する上での足掛かりになります。

人の評価から仕事の評価への転換

メンバーシップ型からの転換を行う上ではまずアサイメントを行うことでグレードが改定されていくということを理解することが重要なのですが、これが理解されないままジョブ型人事制度を運用することで混乱を招くことがあります。

今までの会社への貢献や経験とは関係なく、このポジションに最も相応しい人材が誰なのかを考えながらアサイメントが行われ、その結果としてグレードが決まる。このフローが適切な意思決定方法も含めて設計されていないケースではうまく運用は回らないと言えます。

コミュニケーションプランの軽視

ジョブ型人事制度の導入は、企業の経営層だけで決定し、一方的にマネジメントや従業員に押し付けるものではありません。その過程で社員の意見や感情を無視すると、反発や混乱が生じる可能性があります。

自社にとってなぜジョブ型人事制度が必要になるのかマネジメントとメンバーそれぞれに丁寧な説明を行うことで経営・マネジメント・メンバーが同じ目的意識で人事制度を運用していくことができます。

これらの要素が複合的に作用し、企業がジョブ型人事制度で失敗する結果を招きます。企業は、導入前にこれらの問題点を理解し、適切な対策を講じることが求められます。

失敗から学ぶ: 有効な対策とは?

ジョブ型人事制度が失敗する原因を理解した上で、その対策を講じることが重要です。

人事ポリシーの明文化

まず第一に、自社がどのような人事ポリシーを持つ企業なのかをシンプルに言語化してみていただくことをお勧めします。その際、自社の事業がどのような人材を求めているのか、従業員を雇用する時間軸をどのように捉えているのか、どのようなマネジメントスタイルを重視するのかなどを中心に経営陣でよく議論することからスタートしてみることも一つのきっかけになります。

事業との紐付け

メンバーシップ型の場合、人事の組織機能が会社の中で独特の存在になり事業と切り離されてしまっているケースもあります。このような企業では事業としての方向性に対する認識が薄いため求められている人材を抽象的なレベルでしか設定できていないケースが多いです。むしろ経営陣で事業の将来像から逆算してどのような組織としてのケイパビリティを求めているのかを具体的に言語化した方が有効です。その上で各組織の戦略と整合をとった形で職務設計が行わればジョブ型人事制度の素地が出来上がっていくことになります。

マネジメント力の充実

近年はコマンド&コントロール型の組織よりもフラットかつ個が自律した組織が望まれる傾向があります。従業員からすれば自由があるように思えるためよさそうに見えますが、実態は従来マネジメントが担っていた役割を経営も含めた個々がフレキシブルに担うことになるので非常に複雑どの高い組織運営になります。ある程度、人間性も専門能力も優れた人材ばかりがいる組織であれば問題ないのですが、新卒者もいたり担う職務も多岐にわたる会社では難しいのが実情です。まずはマネジメントを担う人材がジョブ型を理解し、一人ひとりに合ったアサイメントを行えるように日頃のコミュニケーションの量と質に配慮し、自らの力量も高めていくことが重要になります。

ジョブ型雇用制度への懐疑的な声に対する回答

Googleで検索するとジョブ型雇用制度に関する記事が色々と出てきます。不安を感じられるお客様からよく聞かれるのはおおよそ下記のような捉え方をされている方が多いように思われます。

本当に決められた仕事しかしなくなるのか?

ジョブディスクリプションの一部分だけを捉えている場合、陥りやすい誤解になります。職務価値を算定する際の指標の作り方次第ではありますが、算定時の指標としてステークホルダーとの関係性や挑戦度合いなどが折り込まれていれば組織機能から見た定常業務だけを実施していれば良いとはほぼなり得ません。もし本当にそのようなポジションがあるのであればグレードは低くなります。

また、自己理解のためのサーベイなどを通じ、自社のカルチャーやバリューから見た時のフィット感のフィードバックなども組み合わせることで利己的な振る舞いを抑制していくことも可能です。

大切なのはマネジメントが自身の組織としての計画を達成する上でどのようにリソースを最適配置していくのか、その力量が問われてくるというのが本質的な問題となります。

本当に異動させにくいのか?

特定の職務にアサイメントされている以上、異動先の職務要件によってはグレードが下がってしまうのではと疑問に思われると思います。結論としてその可能性はあるのですが、運用上は色々な工夫が可能です。

例えば、異動時のルールとして異動時点ではグレードは変更せず、同等の職務価値の仕事を担ってもらいながら知識やスキル面をキャッチアップしてもらう。但し、キャッチアップが進まずにパフォーマンスが上がらないのであれば徐々に適正グレードに近づけていくなどの工夫を行います。人材育成を加味したアサイメントを行う場合の対応として割とみられるケースです。

難しいのは欧米のようにジョブディスクリプションありきで運用し、職務内容ががらっと変わってしまうことにメンバーが抵抗を感じる場合です。この場合は相応の退職パッケージを用意され円満な形でレイオフになることもあり得ます。

本当にお給料は下がるのか?

ジョブ型人事制度の場合、下がる可能性はあります。特に年功的な人事制度を運用してきた大手企業の場合、グレードが高止まりしている人材も多いため厳格に運用するのでれば当然ながら給与が下がることを生じてきます。

ただ、一般的に10%以上下がる場合には調整給が数年にわたり支給されるためその間にリカバリーすることも可能ですし、次の道を見出す時間的な余裕もあります。

ちょっと注意が必要なのが下げることが目的化している企業です。この見極めは難しいですが、停滞・衰退期に入っている企業などでジョブ型人事制度を導入する場合には疑ってみても良いかもしれません。

ジョブ型人事制度を成功させる前提

ジョブ型人事制度で失敗する企業は、端的に言えば「会社と人の成長を諦めている企業」の場合です。このタイプの企業は何をどう頑張っても業績は伸びないわけですから、当然ながら人件費も増やすことはできません。

会社と人の成長を信じ続ける限りにおいてはジョブ型人事制度は有効に機能させられます。ジョブ型人事制度をきっかけに戦略、計画、組織設計、アサイメント、役割・職務要件、目標(OKR/MBO)、1on1、フィードバックこれらが有機的に整合していれば組織はとても強くなりますし、マネジメント力が自ずと高まります。

その意味からすると、成熟している大手企業がジョブ型人事制度を導入するよりも、成長中のスタートアップ企業や人材が足りていないローカル企業などにこそ早い段階で導入していただくことをお勧めしたいと思います。

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