2023.8.9

賃上げ促進税制とは?令和4年度税制改正による変更点と申請方法を徹底解説

賃上げ税制、別名「賃上げ促進税制」は、企業の給与アップを後押しするための新たな制度として注目されています。先の所得拡大税制を継ぐ形で導入され、令和4年度の税制改正大綱でさらにその内容が強化されました。特に中小企業に目を向けると、従来給与の増加額に対して25%の税額控除が認められていたのが、これが最大40%まで増額される方向となっています。この記事を通じて、賃上げ税制の詳細や、どのように企業と従業員双方にメリットをもたらすのかをご紹介します。

賃上げ税制とは?

賃上げ促進税制、通常「賃上げ税制」として知られている、は従業員の給与を前年度比で一定額以上増加させた企業や個人事業主に対し、税額控除のメリットを提供する制度です。これは、給与増加を前向きに進める企業や事業主の背中を押す役割を果たします。

では、「所得拡大促進税制」とはどのように異なるのでしょうか? 両者は似て非なる存在であり、所得拡大促進税制も給与の増加を奨励するための税額控除を核としています。

しかし、主な違いはその対象期間と具体的な要件にあります。所得拡大促進税制の適用対象となる事業年度は、令和4年3月31日までに開始されたもの。一方、賃上げ税制は令和4年4月1日から令和6年3月31日までの事業年度が対象となります。加えて、賃上げ税制では教育訓練費も考慮の一部として含まれるなど、より幅広い支援要件が設定されています。

令和4年度税制改正で中小企業の控除率が最大40%に

賃上げ税制という制度をご存知でしょうか。この制度では、青色申告書の基本要件をクリアした企業は、国内の雇用者全体の給与の増加額に対して一定の税額控除を受けることが可能です。そして、令和4年の税制改正大綱により、この税額控除の詳細な条件が再編されました。

特に大企業の場合、核となる要件が新規雇用者の給与から継続雇用者の給与へと変わり、さらに前年度比で4%以上の給与増額分を上乗せ条件として導入しました。その結果、最大で30%の税額控除を享受できるようになりました。

一方、中小企業にとっては、さらに手厚いサポートが展開されました。上乗せ要件が柔軟に変更され、従前は給与の増加と教育訓練費の2つの要件を同時に満たす必要があったものが、新たにこれらの要件が個別に考慮される形になりました。この変更により、最大で40%という大幅な税額控除を受けることが可能となりました。

賃上げ税制における大企業・中小企業の定義は?

賃上げ税制において「中小企業向け」と言われることが多いのですが、正確な用語は「中小企業者等」です。この「中小企業者等」の定義は具体的な条件によって明確にされており、それに該当しない企業や個人事業主は、賃上げ税制上で「大企業」として区分されます。それでは、中小企業者等の具体的な条件をみてみましょう。

中小企業者等の条件(以下のいずれかに当てはまること):

  1. 資本金や出資金が1億円以下の法人であること。ただし、同一の大規模法人からの出資が2分の1以上、または2以上の大規模法人からの出資が3分の2以上を受けている法人や、前3事業年度の所得平均が15億円を超える法人は除外されます。
  2. 資本等が存在しない法人で、常時雇用人数が1,000人以下の法人。
  3. 常時雇用の従業員数が1,000人以下の個人事業主。
  4. 協同組合等も中小企業者等としての条件を満たすものとされています。

これらの条件を満たしていれば、賃上げ税制上での中小企業者等としての特典や控除を受ける資格があります。

賃上げ税制による企業のメリットは?

賃上げ税制は、企業側にも多くのメリットをもたらしています。この制度をうまく活用することで、企業の成長と同時に、従業員の満足度や生活の質の向上にも繋がります。

法人税の節税効果

税額控除は、計算上の法人税額から直接差し引くことができる控除方法です。中小企業者等の場合、特定の要件を満たすことで、給与等支給額の増加分に関して、最大40%までの税額控除を受けることが可能です。この結果、従業員の給与を増やす際の追加コストを軽減し、節税の恩恵を享受できます。特に成長している企業や、従業員の給与を増やすことを計画している企業にとって、この税制は経済的なメリットとして大いに役立ちます。

人材の育成と確保

賃上げ税制の特徴として、教育訓練費に関する追加要件があります。この教育訓練には、従業員のキャリアアップに寄与するような専門的な内容も含まれています。この要件を活用することで、企業は中長期的な視点での人材育成や専門スキルの向上を図ることができます。継続的な教育・訓練の投資は、従業員のモチベーション向上や専門的な人材の確保にも繋がり、企業の競争力を高めることにも寄与します。

これらのメリットを理解し、賃上げ税制を適切に活用することで、企業は持続的な成長とともに、社会的な責任も果たしていくことができるでしょう。

賃上げ税制による労働者のメリットは?

賃上げ税制は、企業だけでなく労働者側にも大きなメリットをもたらします。企業がこの制度を適用すると、労働者は給与や待遇の向上を期待することができます。

給与・ボーナスの上昇

労働者にとって最も明確なメリットは、給与やボーナスの増加です。賃上げ税制の導入により、大企業では継続して雇用されている労働者、中小企業では全体の労働者の給与等支給額の増加が求められます。この要件を満たすために、企業は従業員の給与の引き上げや、ボーナスの増額を検討することとなります。

雇用機会の増加

賃上げ税制を活用するためには、企業は従業員の給与を上げるだけでなく、新たに雇用することも考える必要があります。これは、新たな雇用の機会が生まれることを意味します。特に、成長途上の企業や拡大を目指す企業にとって、新しい人材の採用は不可欠です。

結果として、賃上げ税制は、労働者の生活の質やキャリアの向上にも寄与すると期待されます。

賃上げ税制を導入する注意点

賃上げ税制を導入する際の重要な注意点として、税制の優遇が法人税の税額控除に限られることが挙げられます。納税額が元々少ない企業がこの制度を活用した場合、給与やボーナスの増加によるコストアップは避けられませんが、その反面での恩恵は限定的となる可能性があります。

さらに、賃上げ税制は、従業員の給与やボーナスの増加を主な目的としていますが、経営状態によっては、この要件を達成しようとした結果、資金繰りに影響を及ぼすリスクも無視できません。

したがって、税額控除の恩恵だけに目を向けるのではなく、以下の点を注意深く考慮することが求められます。

  • 賃上げを行っても、資金繰りに影響を及ぼさないか?
  • 給与の増額が、設備投資の削減などの他の重要な経営資源に影響を及ぼして、最終的には労働生産性を低下させる原因とならないか?

これらの要点を踏まえ、中長期的な視野での検討と判断が、賃上げ税制の適切な導入には不可欠です。

賃上げ税制の法人税控除を申告する方法は?

賃上げ税制の利用に際して特別な事前認定や申請は不要です。しかし、法人税の税額控除を受けるためには、確定申告時に以下の書類を提出する必要があります。

  1. 別表(法人税申告書)
  2. 適用額明細書: 対象者の給与等支給の増加額や控除可能な金額を詳細に記載する書類です。
  3. 教育訓練費関連書類(該当する場合): 教育訓練の内容、時期、受講者情報、支払証明などの詳細が含まれます。

これらの書類を確定申告書と共に正しく添付し、管轄の税務署に提出する必要があります。

さらに、以下のポイントも重要です:

  • 対象者: 賃上げ税制は青色申告事業者のみが対象となります。白色申告事業者や、青色申告の手続きをしても該当事業年度中に青色申告事業者でなかった場合は適用外となりますので、注意が必要です。
  • 新規事業者: 前の事業年度と比較して給与等の支給額が増加していることがこの制度の適用条件です。したがって、新規設立された事業者は前事業年度が存在しないため、この制度の適用は受けられません。

これらの点を留意しながら、賃上げ税制の恩恵を最大限に活用しましょう。

税制控除のための賃上げは慎重に検討しましょう!

賃上げ税制の利用により、雇用者全体の給与やボーナスの増額分に対して、15%から最大40%(大企業の場合は最大30%)の税額控除の恩恵を受けることができます。この税制の目的は、企業が従業員の賃上げを実施することを後押しすることにあります。

確かに、税額の控除は経営者にとって大きなメリットとなりますが、導入の際には注意が必要です。賃上げ自体が経営負担となりうるため、収益構造や資金繰りに不安がある企業は、税額控除の利点を享受するためだけに賃上げを行うと、逆に経営を圧迫するリスクが高まります。

したがって、税額控除のメリットを追求するだけではなく、中長期的な経営戦略や資金の健全性を総合的に考慮し、賃上げ税制の適用を慎重に判断することが重要です。

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