2024.1.30

報酬制度とは?設計方法から運用の注意点まで解説

中小企業やスタートアップ企業の経営者の皆様に向けて人事制度の中でも報酬制度に着目し、特に人件費をコントロールする上での勘所をご説明します。

報酬制度とは?

報酬制度という表現は役員向けに用いられることが多く、賃金制度は労務を専門とされる方々にとって馴染みのある表現となります。

今回は経営者の方々向けの記事なのであえて報酬制度という表現にしています。

報酬制度は簡単に言えば、等級毎に適切な報酬がいくらでそれはどのようなロジックで決まっていくのかを設計したものになります。

そのためには外部環境要因、内部環境要因の両面から適切な報酬水準を見極めることも大切なプロセスです。採用競争力に繋がるのか、従業員のエンゲージメントを高められるのか、勿論報酬水準を高く設定すれば良いのですが、自社のビジメスモデルから見た場合にプロフィッタブルなのか、このバランスを取ることも経営者の方々の頭を悩ますポイントになります。誰でも気前よくなりたいはずなので。

報酬制度の設計方法

報酬制度のアウトプットの大きなウェイトを占めるのは給与テーブルになります。

これに加えて賞与決定の方法が含まれてきます。これらを設計する上でのステップは大きくは下記の順序となります。

Step1 外部環境の把握(業界や採用する人材の報酬水準)

Step2 内部環境の把握(現在の報酬水準、分布状況)

Step3 給与テーブルの基本構造の整理(給与レンジタイプ、固定/変動比率など)

Step4 給与額の設定

Step5 賞与決定方法の検討

それぞれでの注意点については次のセクションでご説明させていただきます。大きな流れを先にお話すると、自社が属する業界や必要とする職種の報酬水準を把握した上でおおよその報酬レンジを見極めることが必要になります。

これは様々な調査方法がありますが、近年は各社の採用情報が公開されているためざっくりですがわかります。次に人事制度を導入していない場合、従業員毎に個別に報酬額を設定していることが多く、職務レベルなどに関係なくバラバラになっていることもあります。

まずは現在の従業員の皆さんの報酬水準を比較可能な状態に整理し、給与テーブルを設計した上でどのグレードに該当してくるのかを当てはめてみます。するとよりリアルに問題点が明確になり、給与テーブル上の給与額の設定もしやすくなります。

Step 1: 外部環境の把握

外部環境を把握する際には、業界全体の報酬水準やトレンドを理解することが重要です。これには、競合他社の報酬体系、同業界における平均的な給与水準、求職者の期待値、経済状況、労働市場の動向などが含まれます。また、業界に特有な報酬の傾向や特典(例えば、テック業界の株式オプションなど)を考慮することも大切です。この情報は、市場調査、業界報告書、給与調査データベースなどから収集することができます。

Step 2: 内部環境の把握

内部環境の分析では、現在の従業員の報酬水準と分布状況に焦点を当てます。これには、異なる職種、部門、役職における給与の分布、社内での給与の公平性や均等性、昇給や昇進の頻度と基準などが含まれます。また、従業員のモチベーションや満足度に関連する内部調査を実施することも有益です。このステップでは、内部の給与データを分析し、社内の強みと弱みを特定します。

Step 3: 給与テーブルの基本構造の整理

給与テーブルの基本構造を整理する際には、給与レンジタイプ(例えば、職能給、年功給、成果主義給等)、固定給と変動給の比率、昇給の基準と頻度などを決定します。ここでの目的は、明確で理解しやすい報酬体系を構築することです。固定給は安定性を提供し、変動給は成果に基づいて報酬を調整します。また、職種や役職、経験、スキルレベルに応じて適切な給与レンジを設定することが重要です。

Step 4: 給与額の設定

給与額の設定では、市場データ、社内の給与構造、予算制約、個々の従業員のパフォーマンスや経験を考慮します。このステップでは、公平性と競争力を保ちながら、各従業員に適切な給与額を決定します。給与レベルの設定は、企業の戦略的目標と連動し、長期的な従業員のエンゲージメントと生産性の向上を支援する必要があります。

Step 5: 賞与決定方法の検討

賞与の決定方法は、組織のパフォーマンス、個人の成果、市場状況を反映するように設計されるべきです。賞与制度には、業績連動型ボーナス、利益分配型ボーナス、特別報酬などがあります。この段階では、賞与の基準、計算方法、支払いタイミングなどを定義します。また、賞与が従業員のモチベーション向上と会社の目標達成にどのように貢献するかを考慮することが重要です。

報酬制度設計時の注意点

報酬制度の設計において給与レンジタイプは好みが分かれてくるところになります。実際に支援するコンサルタントやフリーランスの人によって変わってきます。

シングルレート、階差型、接続型、重複型どれもプロコンあるので一概に良し悪しは言えません。

ただ、グレードと給与の整合性を重視するのであればシングルレートと階差型を併用するでしょうし、給与は個別に柔軟に調整したいのであれば重複型になってきます。

今回は経営者の方々向けになりますのでポイントを申し上げますと、人件費の管理を容易にしていきたいかが分かれ目となります。

グレードと給与額がシングルレートになっていると人件費の予実管理が格段に行いやすくなります。重複型の場合、幅が出てくるので計画段階からのギャップが大きくなることもありえます。経営者自身で従業員の人件費を管理するところから脱却したいかどうかが関わってくるところでもあります。

報酬制度でエンゲージメントを向上するためには

冒頭でも触れましたが支給する給与・賞与を増やせば勿論、エンゲージメントは当然ながら高くなります。問題はビジネスモデルや収益構造から見てそれが許されるのかどうかです。

俗人的なビジネスモデルであれば優秀な人材を高報酬で雇用することで売上の拡大にもつながるため致し方なしとも言えます。一方で薄利多売のビジネスで高報酬な人材ばかりを揃えていてはスケールさせるときの加速力が出ないかもしれません。

少数の高報酬な人材がマーケティングを型化し、誰でも販売できるようにした上で変動幅の高い報酬でたくさんのセールス人材を雇用した方が良いかもしれません。

エンゲージメントの構成要素は会社、組織、人材、環境などパラメーターが多岐にわたるので報酬だけでエンゲージメントを高めることは現実的かと言われると、非現実的かなとは思います。

ただ、背に腹は変えられないため重要な要素ではあります。一番大切なことは報酬を理由に離職者が発生する状況をいかに避けるかにあり、このためには報酬水準に採用競争力があるのか、リテンションにつながるグレードと給与の整合性があるのかを意識していただくことをおすすめします。

まとめと次のステップ

スタートアップ企業や中小企業の経営者の方向けにご説明させていただきました。いかに外部・内部環境を考慮し、グレードと給与の整合をいかにとっていくのかについてぜひお考えいただきながら設計を進めていけると良いのではないかと思います。

報酬制度の次は評価制度になります。評価制度は日本ではとてもみなさんが注目されるところになります。人事制度は評価制度だと思っている経営者の方もいらっしゃるぐらいなので大事なのは間違い無いのですが、過度に期待しないほうが良いことについても触れていきたいと思います。

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